こんにちは!
今回のお話は 「歯石除去とお口のケアについて」 です。
「うちの子、口が臭う気がする」「歯石がついてるけど、年だから全身麻酔は心配で…」そんなお悩みはありませんか?歯石は、見た目だけの問題ではありません。放置しておくと愛犬・愛猫の寿命を縮めてしまうかもしれない、とても怖い存在なのです。
今回は歯石除去がなぜ重要なのか、その驚くべきメリットについて詳しくお話しします。
人のおよそ3倍!犬猫の歯石がつきやすい理由
歯石とは細菌のかたまりである歯垢が石灰化し石のようになったものです。
人は歯垢が歯石になるまで約2週間にかかるとされていますが、犬の場合は3~5日、猫の場合は約1週間で歯石に変化します。
なんとおよそ3倍のはやさ!その理由は犬猫のお口の中のpHにあります。
人の唾液のpHが弱酸性~中性なのに対し、犬猫は弱アルカリ性です。アルカリ性の環境だと唾液中のミネラル成分が歯垢と結合しやすくなり、歯石がつきやすくなります。
一度できてしまった歯石をハミガキで落とすのは難しいため、歯垢が歯石に変わる前にしっかりケアすることが大切です。
ちなみに犬猫があまり虫歯にならないことにも唾液のpHが関係しています。酸性では虫歯菌が増えやすく、アルカリ性だと歯周病菌が増えやすいため、犬猫は 「虫歯より歯周病になりやすい」 ということになります。
歯石がもたらす3つの悪影響とその先にある病気のリスク
1.お口の中の深刻なトラブル
- 口臭が強くなる: 歯周病菌が発するガスが原因で強烈な口臭が発生します。
- 歯ぐきの炎症と出血: 歯ぐきが赤く腫れて出血しやすくなります。進行すると、歯ぐきが痩せて下がり、歯がぐらつくこともあります。
- 歯の喪失: 歯周病が重度になると、歯を支えている骨(歯槽骨)が溶けてしまい、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
- 痛みによる食欲不振: 歯肉炎や歯周炎がひどくなると、痛みでご飯を食べたがらなくなることがあります。
2.歯だけじゃない!全身疾患のリスク
「え?歯の病気が全身に?」と驚かれるかもしれません。実はこれが最も重要なポイントです。
歯周病菌は、炎症を起こした歯肉から血管内に入り込み、全身を巡ります。その結果、心臓、腎臓、肝臓などの重要な臓器に到達し、様々な病気の原因となることが分かっています。
- 心臓病のリスク: 歯周病菌が心臓弁に付着し、心内膜炎を引き起こす可能性があります。
- 腎臓・肝臓病のリスク: 菌が臓器に定着し、炎症を慢性化させることで、腎臓や肝臓の機能低下を招くリスクが高まります。
3.糖尿病との深い関係
歯周病は、糖尿病と双方向に悪影響を与え合うことが知られています。歯周病が悪化するとインスリンの効きが悪くなり、血糖値がコントロールしにくくなります。逆に、糖尿病を患っている子は歯周病になりやすい傾向があります。
このように、歯石は単なるお口のトラブルではなく、重度になると命に関わる全身疾患のリスクを抱えているのです。
定期的な歯石除去で、寿命が延びる?その驚くべきエビデンス
「でも、全身麻酔のリスクが心配…」そう思われる飼い主様もいらっしゃると思います。もちろん、麻酔にはリスクが伴います。しかし、定期的な歯石除去がもたらすメリットは、そのリスクを大きく上回る可能性があります。
海外で行われた大規模な研究によると年に一度、全身麻酔下で歯石除去を行った犬は、そうでない犬に比べて死亡リスクが約18.3%も低下したという報告があります。これは、定期的な歯石除去が、愛犬の寿命を延ばすことにつながる強力なエビデンス(科学的根拠)です。日頃の歯磨きだけでは除去しきれない歯周ポケットの奥の歯石を、全身麻酔下で徹底的に取り除くことの重要性を示しています。
定期的な歯石除去は、単に歯をきれいにするだけでなく、心臓や腎臓などの重要臓器を歯周病菌から守り、結果として愛犬の健康寿命を延ばすことにつながるのです。
残念ながら、ネコちゃんの歯石除去と寿命に関する大規模な研究報告はまだ多くありませんが、犬と同様に、歯周病が全身の健康に悪影響を及ぼすことは明らかです。ネコちゃんも早期の口腔ケアが大切です。
当院での歯石除去について
当院では、ワンちゃん・ネコちゃんの安全に配慮した麻酔下での歯石除去を行っています。麻酔をかけることに不安を感じる飼い主様も多くいらっしゃると思いますが、全身麻酔で処置を行うことで、お口の隅々まで徹底的に歯石を除去できるだけでなく、処置中の痛みや恐怖から解放してあげることができます。
前述のように麻酔のリスクはゼロではありませんが、それよりも歯石や歯周病を放置しておく方が健康被害のリスクは高いと言えます。
飼い主様としっかり相談した上で、処置前には全身状態を確認するための検査を行い、安全に配慮した計画を立てていますのでご安心ください。
当院では、以下の流れで歯石除去を行います。
- 術前検査: 血液検査やレントゲン検査を行い、全身麻酔が可能か、体の状態に問題がないかを確認します。
- 歯石除去: 歯周病の真の原因は、歯周ポケットの奥に潜む歯周病菌です。専用の器具(超音波スケーラー)を使って歯石を超音波で粉砕し、除去します。歯周ポケットの奥の歯石や汚れまで徹底的にきれいにします。
- 抜歯(必要な場合): ぐらついている歯や、重度に歯周病が進行している歯は痛みの原因になります。必要に応じて抜歯することで、その子のQOL(生活の質)を向上させます。
また、乳歯遺残がある場合はこの機会に抜歯をしておくと良いでしょう。 - ポリッシング: 歯石除去後の歯は表面がザラザラしており、このままでは再び歯垢がつきやすくなってしまいます。当院では歯石除去後に「ポリッシング」を行い、歯の表面をツルツルに磨き上げ、歯石が再び付きにくいように仕上げています。
- 今後のデンタルケア指導:歯石除去後もきれになった歯を維持するために、ご自宅での毎日のオーラルケアが大切です。歯磨きの方法や、歯磨きが苦手な子向けのデンタルグッズの選び方など、今後のデンタルケアについて丁寧にアドバイスさせていただきます。
費用は検査内容や歯石の付着具合、抜歯の有無によって異なります。詳しくはお電話または診察時にご相談ください。
「うちの子の口、大丈夫かな?」と少しでも気になったら、まずは一度ご相談ください。大切なご家族が健康で長生きできるよう、一緒にお口のケアを考えていきましょう!
歯石除去のメリットまとめ
メリット | 詳細 |
口臭の改善 | 嫌な口臭がなくなり、愛犬・愛猫とのスキンシップがより楽しくなります。 |
歯の温存 | 歯周病の進行を防ぎ、大切な歯を失わずに済みます。 |
痛みの軽減 | 歯周病による痛みがなくなり、食欲や活力が向上します。 |
全身の健康維持 | 心臓病や腎臓病などの深刻な病気のリスクを減らすことができます。 |
寿命の延長 | 歯周病に起因する病気を防ぐことで、結果的に寿命を延ばすことにつながります。 |